ERストレス と1型糖尿病 #1 --- ER stress and Type 1 diabetes #1 ---
前略
タンパク質のPTM(Post-Translational Modification, 翻訳後修飾)への興味がERストレスに移り,T1D(Type 1 diabetes)にまで広がりました。そこで読んだのが,"β cell ER stress and the implications for immunogenicity in type 1 diabetes"という総説(Front. Cell Dev. Biol., 27 October 2015 | doi: 10.3389/fcell.2015.00067 | PMID: 26579520 | PMCID: PMC4621612)です。
β細胞は本来の生理的活動として,グルコース濃度の変化に対応するため大量のインスリン生合成をしており,常にERストレスがかかった状態にあります。そこに外的要因(ウイルス感染,活性酸素種ROSを含む化学物質への暴露,糖代謝異常など)が加わることでERストレスが進行,慢性化します。その結果,ER内腔から細胞質基質へのCa2+の流出が起こります。これが細胞質基質での組織型トランスグルタミナーゼ2(Tissue Transglutaminase 2,Tgase2)やペプチジルアルギニンデイミナーゼ(Peptidylarginine Deiminase,PAD)などのPTM酵素を活性化させ,β細胞タンパク質の異常修飾を引き起こします。それが新生抗原として自己応答性T細胞を活性化させ,自己免疫が生じ,β細胞の破壊に至るということです。
これが総説で述べられているT1D発症のシナリオということですね。
ERストレスがβ細胞にとって生理的なものであるならば,なぜすべての人がT1Dにならないのでしょうか。これについては,恐らく遺伝的な自己免疫傾向によるものと考えているようです。これは寛容成立時に篩から免れた自己応答性T細胞が後々悪さをするかもという免疫寛容の問題として捉えられているようですが,PTMによる新生抗原生成は寛容獲得後のイベントですので,免疫寛容が不全な個体でなくとも「新しい抗原」であるはずで,そうすると同じ抗原に対してなぜT1Dの人は自己応答してしまうのか,という問題にならないのでしょうかね。
この総説では,T1Dにおける自己抗原として,クロモグラニンA(chromogranin A,CHgA),プレプロインスリン(preproinsulin),グルタミン酸デカルボキシラーゼ(glutamic acid decarboxylase,GAD65),グルコース制御タンパク質(78 kDa glucose-regulated protein,GRP78,あるいはbinding immunogloblin protein,BiP)を取り上げ説明していますが,実際にERストレスによってβ細胞内でこれらタンパク質が異常修飾を受け,免疫原性を示すようになっているのかについてin vivo,さらにはin situで確認するところまでは至っていないようです。
ER自体がPTMに関わる小器官ですが,問題となるのは細胞質基質でのPTMで,それに関わる酵素として,Tgase2,PADが取り上げられています。これらの酵素は細胞質基質での高Ca2+濃度で活性化されます。ERストレスでCa2+がERから基質に流出するとこれら酵素が活性化するというわけです。preproinsulinは合成後ER内に入り,そこでプロインスリンとなり,ゴルジ体に運ばれるわけで,細胞質基質に裸で出ていくことはないでしょうし,GRP78もER内の分子シャペロンです。基質のTgase2やPADが,これら分子とどのようにして出会えるのか不明ですね。もちろん,主たる仕事場がER内ということで細胞内のあちこちに,また細胞外にも出るんだよ,ということなのかもしれませんし,ERストレスの継続的負荷によりUPRの効果が薄れてくると,UPRはアポトーシスを誘導するようにもなるらしいので,その結果,細胞内タンパク質がごちゃまぜになることもあるでしょうが。その辺の動きがよくわかりません。
ERストレスやPTMはさまざまな疾患にも関わっているようですね。GRP78だけで見ても本一冊書けそうなくらいです。そういう意味でも,上記シナリオ通りなのか,今一つ絞り込めないように感じます。ERストレスを引き起こす原因もいろいろでしょうし,新生抗原生成に関しても免疫系の個体差が大きく関わっているようで,恐らくはT1Dの本星はこれ,と自己抗原を1つに絞れないように思います。
ERストレス軽減の治療が一部の自己免疫疾患で有効であるとしても,T1Dの発症が確認された時点で,果たしてβ細胞の救済は間に合うのか私にはわかりません。遺伝的背景が明らかになる,あるいはβ細胞におけるERストレスのレベルを把握できればT1Dの予防措置等も可能かもしれませんが,すでに発症してしまった人に対しては何ができるでしょう。β細胞を標的とするT細胞が残っている限り,β細胞の再生を行っても意味がありません。つまり膵島移植も免疫の問題をクリアしないといけないわけでして,この自己抗原に応答するT細胞をどうにかしないとiPS等による解決も難しいということなのでしょうか。また,T1D発症者が遺伝的に自己免疫傾向を保有しているのならば,T1D以外の自己免疫疾患に対する警戒もしないといけないことになります。
この問題は継続して勉強しないといけないなあ,ということで,他の総説も読んでいるところです。では,体を大事にして下さい。風邪など引かぬように。
草々
2016年11月5日