For Whom Preprint Are ?
前略
Nature 6月16日,サイエンス・ライター Lindsay McKenzieさんの記事 "Biologists debate how to license preprints." (DOI:10.1038/nature.2017.22161) を読んで書いています。
生物学のプレプリント・サーバーbioRχivに投稿されたペーパーのライセンスに関して,まだまだ生物学者の理解が十分ではないというものです。bioRχivプレプリント・サーバーは,コールド・スプリング・ハーバー研究所で管理している生物科学のためのプレプリント・アーカイバですね。だから,bioRχivは"bio-archive"と発音します。
bioRχivは,クリエイティブ・コモンズが策定したライセンス条項を利用しているようですが,アップロードされた11,000のペーパーの,29%が何のライセンスも付加していない,つまり "cannot be redistributed or reused without express permission"(許可なく再配布・再利用禁止)を選んでいるようです。
以前の手紙 "Sustainable biomedical research enterprise" で取り上げたNature 2016年538号の "Agents of change" (doi:10.1038/nj7626-543a)で紹介されていた,生物学でのプレプリント活用を推進するASAPBio(Accelerating Science and Publication in biolog)も現状を懸念しているといったことが書いてあります。
生物学の研究者が自分のプレプリントをできるだけオープンな形で公開することに躊躇する大きな理由は,
  1. 出版したいジャーナルとの間でライセンスのトラブルが発生するのではないか,別な言い方をすれば,ジャーナルから拒絶されるのではないか,
  2. ジャーナルに掲載される前に公開することで,自身のアイデアが盗まれるのではないか,
の2点でしょうか。
でも,ASAPbiobioRχivのサイトを読めばこういった懸念は払拭されると思うのですが,なかなかそうもいかないでしょうかね。前述の "Agents of change" (doi:10.1038/nj7626-543a)にもあるように,ASAPBioのような組織ができたのも,閉鎖的な査読プロセスや出版までに時間がかかることへの研究者,とりわけ若手研究者のいらだちがあったわけですし,先輩格の物理学におけるarXivプレプリント・サーバーでは100万を越えるペーパーが共有されていることを考えると,プレプリントによって情報交換がスムーズになることは特に最先端科学では,大きな学術的生産性の向上につながると思うのですが。先月読んだNature 544号(4月20日)"DNA's secret weapon againt knots and tangles" (PDFは "A Loop of Faith") には,bioRχivが実際に研究者間の情報交換に役立った話が出てきますよ。
日本の大学や研究機関の現状はどうなっているのでしょうね。勝手な想像ですが,日本の研究者はこういった「権利」に係る問題は苦手,と言うか,あまり興味を持たないように思いますが,いかがでしょう。
実際,法律用語が出てくると難しいですものね。日本語でもわかりにくいのに,英語だと輪をかけて難解になります。"non-exclusive license"や"irrevocable license"などわかりますか。
科学者の法的問題となると,研究内容の改竄,剽窃,あるいは研究経費の不正が真っ先に思い浮かびますが,著作権という自身の権利を守る,あるいは活かすためにどのような選択肢があるのかも,考える必要があると思うのですが,いかがでしょう。
研究費の出所によっては,発表や,研究者自身の権利も制限されることがあるかもしれません。また,今の時代,単独研究などほとんどありえませんので,大抵は共同研究者がいて,しかも海外の研究者といっしょというのも当たり前になってきていますよね。当然,個人個人でもこういった権利に関する考え方に違いがあるでしょうし,お国柄によっても異なるでしょう。曖昧なままの共同研究は,後々トラブルになりかねません。日本人は,そういった点について,もっと真正面からに話し合うべきでしょうね。
あなたの大学やその周辺の現状をろくに知らずに書くのも,無責任で思い上がりも甚だしいところですが,こういった問題について若手で意見交換を行う機会を設けるのもいいのではないでしょうか,可能ならば,先輩格の物理や数学領域の先生,法律の専門家を呼んで,セミナーを開くのはどうですか。
真逆(まさか!)とは思いますが「研究も満足にできないくせに,もう発表の心配か」などと嘆く前時代的先生は,いらっしゃらないですよね。なんて,また余計なことを爺は思う次第です。
では,体には十分気をつけて下さい。
草々
2017年6月24日