Intrinsic Disordered Protein
前略
また言葉の問題です。最近,"activation domain"(1)についての総説を読んでいたのですが,"intrinsic disordered protein"というものに出会いました。わずか8個か9個のアミノ酸配列で機能し,しかも(機能が保存的であるにもかかわらず)その配列に保存性が見られない,さらに"intrinsic disordered character"を持っているのでは,ということです。
さて日本語では何と言うのだろうとインターネットで調べると,「天然変性タンパク質」とありました。たとえば,「天然変性タンパク質の分子認識と機能発現」「天然変性タンパク質とは何か?」,などですね。
"intrinsic disordered protein"とは,一定の構造を持たず,条件によって柔軟にその構造を変えるタンパク質で,場合によってはタンパク質分子内の特定の領域に対しても"intrinsic disordered protein region"という表現を使うようです。動的に構造を変え生体内高分子複合体の接着剤役を果たしたり,細胞内での「足場("scaffold"」となったり,さまざまシグナリングに関係したり,実に多彩です。「天然変性タンパク質とは何か?」には,
……構造をつくらないタンパク質(あるいは,その部分)が生体内に多数存在することが知られるようになった.球状構造をとらないアミノ酸配列部分が数百残基におよぶことも珍しくない.このような配列部分は「本来的に不規則(intrinsic disorder)」な領域とよばれ,タンパク質分子の全体が不規則領域からなるもの,または部分的にせよ不規則領域をもつものは天然変性(natively unfolded)タンパク質という.……
とあります。
"intrinsic"を天然,"disordered"を変性,と訳したのでしょうか。それともこれらタンパク質の性質から名付けたのでしょうか。どちらにしても,私にはしっくり来ません。あなたはどう感じますか。違和感ありませんか。もちろん,私は学術用語に何か意見を言う立場ではありませんし,専門の先生方と議論できるだけの見識を持ち合わせているわけでもありませんので,これが専門家が決めた日本語表記というのであれば仕方ありませんが,海外の科学を輸入し独自の用語を作り上げてきた先達に比べると,残念な命名だと思います。
"intrinsic"は生物の学術論文でよく使われる表現ですが,本質的に,生来持っている,内在しているといった意味でしょう。外から与えられたものではなく,もともとの性質ということですよね。「天然」というのもわからないではありませんが,その反対語は「人工」でしょう。でも,"intrinsic"の反対語は"extrinsic"であって,"artificial"や"synthetic"ではありませんよね。
"disorder"も,ここでは,決まった構造を持っていない,という意味でしょう。タンパク質の「変性」は条件が変わることで高次構造が変化してしまうことだと思っていましたが,「天然変性タンパク質の分子認識と機能発現」には,
天然変性タンパク質は単独では変性状態をとりますが,……
とあり,ランダムコイルと同じような意味で使っているように感じました。でも"disorder"はランダムコイルでもなく,構造がない,"un-structured"ということなのだと思います。先の引用(「天然変性タンパク質とは何か?」)のように,むしろ「不規則」の方がまだわかりやすいと思います。
私はあえて"intrinsic"については触れず,決まった構造を最初から持っていない,という意味で「不定」の方がいいと思います。
「不定構造タンパク質」。いかがでしょうか。論文を読む時は勝手にこういった言葉に置き換えることにしました。
ということで,この"intrinsic disorderd protein"についても総説(2)を見つけて読んでいるところです。
では,体には十分気をつけて下さい。
草々
2017年5月13日
  1. Erkina T.Y, et al. Nucleosome distortion as a possible mechanism of transcription activation domain function. Epigenetics & Chromatin. 2016; 9(1):40. DOI: 10.1186/s13072-016-0092-2
  2. Uversky V.N. The multifaceted roles of intrinsic disorder in protein complexes. FEBS Letters. 2015; 589: 2498–2506.