Readability of Science Papers
前略
研究関連のペーパー,たくさん読んでいますか。私も興味に任せて総説を選んで読んでいますが,「説明」が後から来たり,割り込んで来たりする英語には依然慣れません。英語で考えない限り無理なのでしょうが,そのこと自体想像も及びません。学校の英語で苦労した「節」や「句」には今でも抵抗があります。
最近,Nature 2017 3.30の "It's not just you: science papers are getting harder to read" (DOI:10.1038/nature.2017.21751)という Philip Ball の記事を見つけました。ストックホルム・カロリンスカ研究所の Thompsonらが,1881年から2015年までの主要なジャーナルで出版されたバイオメディカル領域のアーティクルについて,その「要約」の読みやすさ(readability)を検証した結果,それがどんどん低下していると報告したものを題材としています。そのThompsonらの "The Readability Of Scientific Texts Is Decreasing Over Time" doi: 10.1101/119370)も目を通してみました。
(ちょっと本題から外れますが。Thompsonらは "readability" がdecrease,と表現していますが,Philip Ballの記事には "impenetrable" という言葉に変えて書いているところがあります。微妙に違うように感じますがどうなんでしょうね。)
"readability"というものをどのように調べるのかと不思議に思いましたが,この研究では,使用単語あたりの音節数,文あたりの単語数を調べるFRE(Flesch Reading Ease)という指標と,文あたりの単語数と予め設定した一般的な単語リストに含まれない単語数を調べるNDC(New Dale-Chall Readability Formula)という指標を用いています。これらの指標から"readability"が落ちてきているという結果を得ているわけですが,その理由として,専門用語が増えていること,共著者数が多いこと,などを検討しつつ,それだけでは説明できないということで,彼らが注目したのが "general science jargon" という,例えば,
novel robust significant distinct moreover therefore primary futhermore underlying suggesting
といった言葉で,これの使用が増えているということです。科学論文的表現,言い回し,とでも言った方がいいかもしれませんね。確かに私もこういった単語はよく目にしますが,それが原因で読み難いとは思いませんし,理解し難いとも感じません。たぶん私の英語力がそれ以前なのでしょう。
実は,Ballは,Vinkersらの "Use of positive and negative words in scientific PubMed abstracts between 1974 and 2014: retrospective analysis" というペーパーを題材として,同じくNature(2015年12月14日)に "‘Novel, amazing, innovative’: positive words on the rise in science papers" という記事も書いています。こちらも最近「ポジティブ」な,もっとはっりき言ってしまえば自己アピール色の濃い単語の使用が増えている,というものです。こういった傾向に関しては恐らく誰でも似たような理由を思いつくでしょう。
MBAの学生について,文法的にも複雑なまとまった文章を読んでいる学生は,特定のジャンルや話題の寄せ集めのWEBばかり読んでいる学生よりよい文章を書くことができるという調査結果を発表しているYellowlees Douglasは,こういった傾向が見られることの理由を次のように話しているそうです。
多くの場合,グループの若手が最初の草稿を書くだろうが,彼らはよい手本とはどのようなものかわからないから,すでにジャーナルにあるものを手がかりにするだろう。
本当にいい文章かどうかはともかく,ジャーナル上にあるのは合格証を得たものなわけですから,それを手本にすればいい,となりますよね。真似が真似され,1つの傾向が作られた,私もそんな印象を持ちましたが,さて実際はどうなのでしょうか。
それで,あなたはペーパーを書くための練習をもう始めていますか。何を手本としていますか。Douglasの研究はMBAの学生を対象としていましたが,科学論文でも当てはまるでしょうね。彼女は,ジャーナルなどを読んでいる学生のほうが作文に関して "syntactic sophistication" だという結果を得ていますが,まさにそのジャーナルを読んだ結果として,"general science jargon" や "positive" な単語が増えているわけで,そうなると問題は,どれが「よい手本」か,ということになりますね。Ballは記事の最後で,"Why not encourage students to put down Nature and pick up Darwin, Dawkins or Dickens?" なんて書いていますが,私は英語を母語とする,特に英国人科学者のペーパーの方が読みにくいです。繰り返しますが,それは私の英語力の幼稚さ故でしょうけど。
科学論文の "readability" が問題なのは,当然のことながら単純な読み易さや文章の上手下手ではありませんよね。Thompsonらは Discussion に次のように書いています。
... amidst concerns that modern societies are becoming less stringent with actual truths, replaced with true-sounding "post-facts" science should be advancing our most accurate knowledge. One way to achieve this is for science to maximise its accessibility to non-specialists such as journalists, policy-makers and the wider public. ...(中略)... It is also worth considering the importance of comprehensibility of scientific texts in light of the recent controversy regarding the reproducibility of science. Reproducibility requires that findings can be verified independently. To achieve this, reporting of methods and results must be sufficiently understandable.
"altanative fact" という言葉が話題になる時代ですから,"post truth" もさらに "post-facts" と表現されているのでしょうか。そういった現代社会にあって,科学は,自分自身の再現性や信頼性のためにも,多くの人々の手の届くところにあるべきでしょう。新たな概念が作られたり,これまでにない現象が見つけられれば,それに合わせて専門用語が増えるのは当然のことです。しかし,科学論文が一般の人々から遠い存在であっても仕方ないということにはなりません。むしろ科学者は,社会に対して自らの研究をどんどん発信していかなければならないと思います。あなたはどう考えますか。
そこで,再び,あなたにお聞きします。ペーパーを書く練習をしていますか。そして,英文ジャーナルだけでなく,当然文学も含め,さまざまな分野の論説文なども読んでいますか。
私はこれまで通り日本語で考えながら面白そうな総説を探して読んでいきますけどね。では,ごきげんよう。お体を大切に。
草々
2017年4月 7日