Recrutable Radius
前略
半年ぶりでしょうか,お変わりなく勉学・研究に励んでいることと思います。
先日,京都に旅行し上賀茂神社などに参拝してきました。その上賀茂神社の北に京都産業大学がありますが,ここの研究所の1つである『タンパク質動態研究所』のホームページでは,タンパク質の「一生」を5つの段階に分け,各段階と研究所の研究テーマとの関係を紹介しています。その5段階を借用すると,(1) 生まれる,(2) 成長する,(3) 移動する,(4) はたらく,(5) 分解する,ということだそうで,先に紹介したShiberらの"Cotranslational assembly of protein complexes in eukaryotes revealed by ribosome profiling"(1) は2段階目の「成長する」に関係するものということになります。実は,ある方のご厚意によりこのarticleの本文を読むことができました。本当にありがたいことです。
それで,やはり一方のサブユニットがパートナー・サブユニットの翻訳と同時進行で会合することで,パートナー・サブユニットの適切な折り畳みが進行するというものでした。でも,疑問に思うことも増えてしまいました。そこで,今日はこのarticleを元にして書きます。
彼女たちが調べたタンパク質複合体のうち,articleで詳しく紹介しているのは,脂肪酸合成酵素FAS(Fatty Acid Synthase,Saccharomycesの場合,α鎖・β鎖各6個ずつからなるヘテロドデカマーを構成)と,ヘテロトリマーのアミノアシルtRNA合成酵素(multi-aminoacyl-tRNA synthetase,メチオニルtRNA合成酵素MetRSとグルタミルtRNA合成酵素GluRS,及び両者に結合するArc1pから構成)です。FASの場合,α鎖が安定的ではなく,先行して合成された安定なβ鎖がα鎖の適切な折り畳みを助ける形になります。一方,MetRSとGluRSは互いに共翻訳的な関係にありますが,Arc1pはそうでもないようです。
そこで,疑問です。
これらサブユニット合成で共翻訳が行われるなら,mRNAは近隣のリボソームで翻訳されるはずです。ではどのようにしてこれらのmRNAは「複合体合成工場」にやってきたのでしょうか,また,ほぼ同時期に翻訳される必要があるわけですから,これら遺伝子の転写のタイミングはどのようにして決められているのでしょうか。
Saccharomyces Genome Databaseで調べてみますと,MetRSの遺伝子MES1,GluRSの遺伝子GUS1はともに7番染色体上にありますが,隣接しているわけではなくかなり離れています。また,FASのα鎖をコードするFAS2遺伝子は16番染色体にあり,β鎖のFAS1は11番染色体にあります(Saccharomycesの染色体数は16)。このように離れた場所にある遺伝子を同じタイミングで転写するしくみとはどのようなものなのでしょう。
先に書いたようにShiberらは,原核細胞におけるポリシストロンによる共翻訳の事例を紹介していますが,それは,Shiehら(2015)の研究(2) であり,そのabstractには,次のように書いてあります。
"Protein assembly is thus directly coupled to the translation process and involves spatially confined, actively chaperoned cotranslational subunit interactions."
つまり,ポリシストロンだからこそ,‘spatially confined’であり,そうではない真核細胞の場合,‘spatially’に’confine’するしくみが必要だということです。
実際,Shiberらは,articleの最後に次のように書いています(1)
"We further speculate that the translation of complex subunits is spatially confined in the cytosol, as this would facilitate timely assembly and prevent prolonged nascent-chain exposure."
でも,複合体サブユニットの翻訳をある空間内に囲い込んでおくしくみはまだわからないということでしょうね。
Shiehら(2015)のabstract(2) 冒頭には,
"Assembly of protein complexes is considered a posttranslational process involving random collision of subunits."
とあります。なるほど,タンパク質どうしが会合するのは,分子のランダム衝突によるものでしょう。しかし,タンパク質複合体の適切な集合は,関係分子が必要なタイミングで衝突してくれるだけの密度で揃っているような空間が保証されているからこそ可能になるはずです。勝手に言葉を当てるなら,「招集可能半径」‘recruitable radius’内が「工場」であり,工員,工具,材料,設計図がその中に揃っていなけれならない,ということです。もし,人手不足になれば,製造途中の部品が使い物にならなくなるかもしれません。実際に単独では不安定なサブユニットは,パートナーがいなければ折り畳みミス,凝集,分解などを起こすことになります。それはそれで,例のstoichiometricな調節になっている可能性(1) もあるというわけですが,そうそう無駄に翻訳作業をするわけにいきません。
Shiberらは,共翻訳的なタンパク質の会合が広く採用されていると言っていますが(1) ,一方で,翻訳速度を制限してしまう,ドミナント・ネガティブに関わる可能性があるなど,いいことばかりではないということも指摘されています(3) 。いずれにせよ私には,この招集可能半径がどれほどの大きさで,招集可能半径内にメンバーを集め,留めておくしくみは何なのか,依然として疑問のままであり,このメンバーはタンパク質ばかりではないということを改めて意識した次第です。
では。今日はこの辺で。お体,大切に。
草々
2019年5月20日