科学研究の再現性 --- Reproducibility in Science ---
前略
科学におけるデータ改竄・捏造は倫理的な問題ですが,最近,科学研究の再現性が問題になっていますね。こちらは研究や実験の計画,データ解析,結果の解釈が問題になると思います。今回読んだのが,NatureのMonya Bakerの記事"Reproducibility: Seek out stronger science"(Nature 537, 703-704 (2016) doi:10.1038/nj7622-703a) ,ある大学院生が立ち上げた実験計画に関するコースの話をベースにした科学研究の再現性に関する記事です。院生や若い研究者等を対象とする実験計画,統計処理,結果の解釈に関する訓練,つまり,どのようにして科学を実践していくかの指導が十分ではないというものです。
何十年も前の話,つまり自分はどうだったかと振り返れば,実験計画の立案方法はもちろん統計も,カリキュラムの中に位置づけられた講義や実習という形では指導を受けた覚えがありません。OJT(on the job training)みたいに研究しながら教わるもの,あるいは職人の世界のように「見て盗め」的(古いくさい)考え方が残っていたのかもしれませんね。それが今でも変わっていないということでしょうか。
高校生の課題研究や部活動での研究に対する大学の先生方からの助言でも,統計処理の重要性について何度も耳にしますが,そもそも高校の教員が実践的な統計の指導を受けたことなどないでしょうし,数学の先生方は統計などの「応用」数学に消極的であるように感じます。そして,さらに,当の大学の先生は大丈夫なのかしら,なんて思ったりもします。
記事ではNIHの研究トレーニング・プログラム責任者の話として,『科学は驚異的な速度は変わっていくもの,今先頭に立っている研究者と他の研究者は違う時代に訓練を受けてきたわけで,……今利用できるトレーニングの多くは新しいものであり,あまり知られていないものなので,科学者は自分の解析技術を磨こうとするなら自分が必要とする情報や技術を率先して探すか,自分で作り出すしかないんです』(爺訳)と書いています。
そして,この手の記事のお約束,何箇条かのアドバイスでは,専門に特化したプログラムを探せ,周りの人に聞け,なければ作れ,とあります。リソースは思いの外あるぞ,とも言ってますが,こういうことを書くところを見ると,少なくとも向こうから転がってくるほど整備されてはいない,むしろ最悪,自作しないといけない。いや,これは控えめな言い方になってしまいましたね,何しろ,Johns Hopkins School of Medicineの院生ですら自作しなければならなかったわけですからね(そんなに古い話ではないと思います,この院生,まだ院生みたいですから)。
大学の先生方も,場合によっては院生やポスドクといっしょになって,実験の計画法や新しい統計手法など勉強しないといけないということでしょう。記事にもありますが,統計学者,コンピュータ学者が主導するプログラムでは使えない可能性があります。恐らく,同じ生物学でも,分子生物学,生態学など,専門領域によって微妙に扱いが違うと思います。まして,生物学,経済学,心理学などまぜこぜではそのコースを受講する意味はほとんどないでしょう。
そういう意味で,いい先生といいラボに入れれば,ちゃんとした実験デザインの訓練を受けデータ処理も大丈夫かもしれませんが,間違っちゃうと「一門」全滅になりかねません。恐いですね。
日本の大学も,研究倫理だけでなく,きちんとした実験デザインや統計のカリキュラムが必要でしょう。あなたの大学,どうなっていますか,大丈夫ですか。
では,健康にだけは留意するように。
草々
2016年10月31日