Stoichiometry
前略
最近いくつか総説を読んでいましたら,"stoichiometry"という単語に出会いました。
  1. The I-E Cascade is built up by a single 61-nt long crRNA and five different Cas proteins in an uneven subunit stoichiometry: (Cse1) 1 -(Cse2) 2 -(Cas5) 1 -(Cas7) 6 -(Cas6e) 1 resulting in a total crRNP mass of 405 kDa.
  2. However, they have confirmed the importance of dosage balance between X-linked and autosomal genes involved in stoichiometric relationships.
手持ちの英和辞典には載っていません。でも,学生時代に第二外国語のために買った「新仏和中辞典」(白水社,Nouveau Dictionnaire Pratique Français-Japonais,1973)には,"stœichiométrie"がちゃんとありました。「化学量論」とあります。実にすばらしい。なぜフランス語と思うでしょうが,この辞書には結構専門用語が載っているんです。ラテン語の関係かもしれませんね。岩波の生物学辞典など高価で買えませんので,文献を読む時はこの仏和辞典がとても役立ちました。
それでは,インターネット上の辞書はどうでしょうか。
google
「化学量論」。
weblio
「化学量論,化学量論性,ストイキオメトリ,化学量論比,化学量論組成,化学量」など。
wikipedia
リンクされている日本語wikipediaの見出し語は「化学量論」です。
要するに物質量比(モル比,と言ってはいけません),質量比など化学反応の量的関係や分子を構成する元素の組成比などに関する理論,あるいは,そういった量的関係に関して言及する際に使う言葉なのでしょうが,上記の辞書等には例文の意味としてぴったりのものはありません(辞書なのにカタカナ言葉で答えられても困りますし)。
最初の例文は,明らかにサブユニットの構成のことを言っています。Cascadeが5種類のCasタンパク質から構成されているが,それぞれのサブユニット数は同じではなく,Cse1 ×1,Cse2 ×2,Cas5 ×1,Cas7 ×6,Cas6e ×1からなる,ということですね。
タンパク質化学ではこういう場面でも"stoichiometry"を使うんだ,と納得です。実際,RCSB PDB (Research Collaboratory for Structural Bioinformatics - Protein Data Bank -)では,
Protein Stoichiometry
The stoichiometry of a protein complex represents the composition of its subunits.
と説明しています。
では,2つ目の例文はどうでしょうか。これはX染色体の不活性化に関する総説からのものですが,ここでは遺伝子の数量のことを言っています。こういう場面でも使われるという点が面白いですね。
実は,"stoichiometry","gene"で検索すると,たくさん拾い出すことができます。聞きなれない単語だとばかり思ったのは,私の勉強不足ということでしょう。遺伝子転写量の調節(遺伝子発現量)に関しても使うだけでなく,生態系における物質収支やエネルギーバランスの議論としての"ecological stoichiometry"という使い方もあるようで,およそ何かしらの数量的関係すべてに使われている感じがします。
便利なのでしょうね。研究者たちは普段からこの"stoichiometry"という言葉を使って議論しているのでしょうか,英語圏の科学教育の場ではどういった使われ方をしているのでしょう,もっと簡単な表現ができそうなものですが,なぜこれを使うのでしょうか,何か特別な意味合いが含まれているのでしょうか。そういったところが気になるところです。
一方,日本人研究者はどうなのでしょう。意味が拡張され(化学から他へ)学問領域を跨いで使われるようになった時,"stoichiometry"をそのまま使って議論していていいものかどうか心配です。
もし,大学で耳にすることがありましたら,どのような場面で使われたのか,その意味合いはどういったものか,教えて下さい。
上記例文はそれぞれ以下の文献から引用したものです。
草々
2017年2月14日