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クスィダゾォオン Xidazoon stephanus
(クシダゾーン、シダズーン、シダゾーン)
クスィダゾォオン #01
クスィダゾォオン(Xidazoon stephanus)は、カンブリア紀初期の海生動物で、有名な澄江動物群の1つであるウェツリコラ(Vetulicolian、Vetulicolida綱)のメンバーである 5)。属名は中国の西安大学の略称から採ったもので、種小名はギリシャ語の「冠」を意味する 4)
クスィダゾォオン #02
体長は約8.5cm 4)で、前方部と後方部はほぼ同じくらいの長さである。同じ分類群(ディダゾォオン科、Family Didazoonidae)のディダゾォオン(Didazoonとよく似ているが、クスィダゾォオンの前方部は卵型で丸みを帯びている。体前方部は5つに分節化しているが、その分節境界はディダゾォオンほど明瞭ではないようだ 5)。腹部の縁はキール(船の竜骨)状となっている 5)
クスィダゾォオン #03
前方部には両側面中央に前方から後方に向けて並んだ5つの鰓裂と思われる構造があり、それぞれ帽子(lappet、hood, cowl)状の覆いが少し突出するような形でついている 5)。この構造は、内部とつながっているようだ 5)。また、体前端にある内外二重の環状口器も極めて特異な構造であり、小片が放射状に25〜30個配列している 4, 5)
体後方部は、楕円形の広葉のような(近接部・遠心部で低く中央で高い)形状で7つに分節し、終端部は丸みを帯びている 4), 5)。終端に開口部を持つ消化管があり、後端には2、3本の短い棘状構造がついている 4)
クスィダゾォオン #04
クスィダゾォオンは底生の表在性(表生性)であり、底生の堆積物濾過食性と思われる 1), 4), 5)。あるいは、海底近くを泳ぎながら懸濁物を摂取していた可能性もある 2)。環状口器には咀嚼など何らかの動きを推測させる機構の痕跡など見当たらないようだ 1)。標本の多くは体前方部に多量の堆積物を含んでいること 1, 4), 5)も合わせ考えると、クスィダゾォオンは口から海底の堆積物や海水中の懸濁物などを海水とともに吸い込み、そこから有機物などを濾過して栄養としていたのかもしれない。不要な海水は鰓裂から排出されたのだろう 3), 5)
クスィダゾォオン
クスィダゾォオンが含まれるウェツリコラは、節足動物や後口動物ステムグループなど、またその分類群内の位置もさまざまに考えられてきた 1), 8)。前口動物の可能性も残っており 1)、系統上の位置に関してより慎重であったり 1)、懐疑的な立場 7)もあるが、大方の議論は後口動物としているようだ 2), 8)。ただ、その位置について、後口動物ステムグループと考えるか 3), 5), 6), 8)、脊索動物ステムグループ、とりわけ尾索動物姉妹群 2)として扱うかで意見は分かれている。
ウェツリコラの仲間は、現在は北アメリカ(グリーンランド・シリウスパセット) 8)、オーストラリア(南オーストラリア・エミュー・ベイ頁岩層) 2)でも発見されている。
クスィダゾォオンは、おなじくディダゾォオン科のPomatrumと同種であるという議論がある 1)。もしそうであるなら、クスィダゾォオンはシノニム(同種異名)ということになり、発表順番からPomatrumが優先される 1)。しかし、これもまた合意が得られていない 6)
2015年3月 制作
2020年12月 - 2021年3月 再制作
参考文献・サイト:
  1. Aldridge RJ, Xian‐Guang H, Sivester DJ, Sivester DJ, Gabbott SE (2007) The systematics and phylogenetix relationships of Vetulicolians. Palaeontology 50: 131-168. (DOI:10.1111/j.1475-4983.2006.00606.x.)
  2. García-Bellido DC, Lee MSY, Edgecombe GD, Jago JB, Gehling JG, Paterson JR (2014) A new vetulicolian from Australia and its bearing on the chordate affinities of an enigmatic Cambrian group. BMC Evol Biol 14, 214. (DOI:10.1186/s12862-014-0214-z.)
  3. Ou Q, Conway Morris S, Han J, Zhang Z, Liu J, Chen A, Zhang X, Shu D (2012) Evidence for gill slits and a pharynx in Cambrian vetulicolians: implications for the early evolution of deuterostomes. BMC Biol 10, 81. (DOI:10.1186/1741-7007-10-81.)
  4. Shu D, Conway Morris S, Zhang XL, Chen L, Li Y, Han J (1999) A pipiscid-like fossil from the Lower Cambrian of south China. [abstract] Nature 400(6): 747-749. (DOI: 10.1038/23445 .) (The full-text was referred to ResearchGate.)
  5. Shu DG, Conway Morris S, Han J, Chen L, Zhang XL, Zhang ZF, Liu HQ, Liu JN (2001) Primitive deuterostomes from the Chengjiang Lagerstätte (Lower Cambrian, China). [abstract] Nature 414: 419-424. (DOI:10.1038/35106514.) (The full-text was referred to ResearchGate.)
  6. Shu DG, Conway Morris S, Zhang ZF, Han J (2010) The earliest history of the deuterostomes:the importance of the Chengjiang Fossil-Lagerstätte. Proc. R. Soc. B 277:165-174. (DOI:10.1098/rspb.2009.0646.)
  7. Swalla BJ, Smith AB (2008) Deciphering deuterostome phylogeny: molecular, morphological and palaeontological perspectives. Phil. Trans. R. Soc. B 363:1557–1568. (DOI:10.1098/rstb.2007.2246.)
  8. Vinther J, Smith MP, Harper DAT (2011) Vetulicolians from the Lower Cambrian Sirius Passet Lagerstätte, North Greenland, and the polarity of morphological characters in basal deuterostomes. Palaeontology 54: 711-719. (DOI:10.1111/j.1475-4983.2011.01034.x.)